水田雑草群落
日本の稲作の起源は、縄文末期から弥生時代にかけて九州に始まり、順に東に向って広がっていったと考えられている。稲作には水が必要なので、水田はハンノキなどが茂る低湿地を切り開いて作られた(文献62)。
田植え前に耕起された水田
(2004年4月30日撮影)
水稲は一般的には低湿地帯から半湿地帯へと広まり、治水技術を含む取水技術の進歩によって乾田地帯(扇状地域)へ普及したとされる。
金沢平野においても、犀川と浅野川との中間下流平野(標高5m内外以下)が最も早く、これに続いて犀川南側の安原川と伏見川の合流する低湿地域に定着し、この辺りから伏見川や十人川・安原川の中流域へ、また、これとほぼ同時代に扇端部の湧水地帯(標高15m以下)の地域へと拡大していったと推定されている(文献69)。
水田の雑草は、イネの種子とともに南方から入ってきた種類と、従来から日本の低湿地に生育していた水辺の植物が水田に侵入した種が考えられる(文献62)。
北海道を除いて日本に生育する水田雑草は43科191種、うち畑雑草との共通種は18科76種とされているが、このうち日本固有種はアギナシのみで、大部分は南中国〜東南アジア、東アジア、東北アジアの原産で、イネとともに渡来したことを思わせる(文献26)。
田植え直後の水田
(2004年5月6日撮影)
水田は、灌水、耕起、中耕、除草、施肥など強力な人為作用を受ける(文献6、26)。
また、水が流出しないように水田の周りに土堤や畦を作る。これらの水田の内外の作業に関連して、いろいろな水田雑草群落が成立していった(文献62)。
水田雑草群落では、こうした水田管理、乾田・湿田、季節の変化などにより雑草の種類や量に大きな違いが出る。最近の水田は除草剤の使用とトラクターによる深起によって、雑草は非常に少なくなってきた(文献6)。
田植えから約1ヵ月後の水田
イネ以外の植物はほとんど見られない。
(2004年6月9日撮影)
水田に生える雑草は、イネとともに生育して夏から秋にかけて開花結実する夏期水田雑草群落と、稲刈り後に生えてきて翌春開花結実する冬期水田雑草群落に分けることができる(文献6)。
イネに混じって生育しているイヌビエ
一年草。イネとよく似ているので除草をまぬがれるという(文献62)
(2004年7月29日撮影)
夏期には管理のかなり行き届いている田でも、イヌビエ、コナギ、クサネム、ヤナギタデなど一年草がよく生える。
水田の辺縁に群生している一年草、コナギ
(2004年7月29日撮影)
夏期水田雑草群落は、イネクラスのウリカワーコナギ群集に位置づけられ、群集標徴種はコナギ、ウリカワである。
湿田でよく見られたサンショウモやオオアカウキクサは石川県内では絶滅が心配されている(文献6)。
イネに混じってアメリカセンダングサやミソハギが生育している水田
(2004年8月8日撮影)
管理の悪い田ではさらにミズガヤツリ、マツバイなど地下茎でも繁殖する多年草が勢力を強める。これら多年草は除草しても地下茎が残っているとすぐ顔を出してくる、除去困難な強害草である(文献6)。
水田の辺縁に生育しているミゾカクシ(アゼムシロ)
多年草。畦、溝のふちなどに生える(文献62)
(2004年8月8日撮影)
稲刈り間近の水田
(2004年8月19日撮影)
水田雑草群落は水稲栽培と結び付いたものであるから、春の終わりの田植えの時期から秋の初めの刈り取りの時期までは、水稲の圧倒的な優占度のもとにおかれている。さら機械的除草や除草剤の使用により人為的に除去されるという淘汰圧を受けている。
稲刈り直後の水田
(2004年9月9日撮影)
ところが水稲が収穫されると、これらの諸条件がなくなるので、生育が活発となり雑草群落の発達が顕著となる(文献26)。
稲刈りから1ヶ月近く後の水田
土湿のためか、稲藁の処理など管理のためか違いか、水田雑草はあまり多くない。
(2004年10月25日撮影)
秋から春にかけては、秋耕の有無、土湿の多少、稲藁の処理などの違いにより、雑草の生育状態に大きく差ができる(文献26)。
稲刈りから1ヶ月近く後の水田
刈り取り跡から再生したイネに混じってイヌビエが優占している。
(2004年10月25日撮影)
冬期水田雑草群落はタウコギクラスとされ、一般に乾田はノミノフスマーケキツネノボタン群集、湿田はスズメノテッポウータガラシ群集となっている(文献6、26)
稲刈りから1ヶ月近く後の水田
まるで耕作中の水田のようにイネが生え揃い、他の水田雑草は少ない。
(2004年10月25日撮影)
イネの刈り取り後の水田に生育しているタネツケバナ
(2004年10月25日撮影)
ノミノフスマーケキツネノボタン群集の主要な構成種はノミノフスマ、コオニタビラコ、ケキツネノボタン、セトガヤなどで、スズメノテッポウ、タネツケバナ、セリ、シバなどが出現している場合も多い(文献6、26)。
秋、稲の刈り取り後に発生し、翌年の4〜5月、水田の耕作が開始されるまでの間に生育する。春に花をつけ、イネの耕作中は種子や宿根で過ごす。イネの耕作中は土壌が著しく攪拌されるため、毎年、安定して生育するとは限らない(文献26)。
耕作直前の水田
スズメノテッポウが優占している。
(2004年5月6日撮影)
スズメノテッポウやケキツネノボタンが優占している放棄水田
(2004年5月6日撮影)
スズメノテッポウータガラシ群集の主要な構成種はタガラシであるが、スズメノテッポウ、タネツケバナなどの2年生草本群落の常在度が高い。構成種の多くは秋季から春季耕作直前頃まで成長する(文献26)。
雪に覆われた水田
(2005年2月11日撮影)
ウリカワーコナギ群集(夏期水田雑草群落)やノミノフスマーケキツネノボタン群集、スズメノテッポウータガラシ群集(冬期水田雑草群落)は、いずれも越冬一年生植物を少なからず含んでいる(文献26)。
越冬一年生植物の性質は水田裏作に活用され、かってはオオムギ、コムギなどの畑作の形態で水田利用が行われた。また、レンゲソウやアブラナ属の植物(いわゆるフキタチあるいはクキタチ)をこの期間の水田で耕土しないでそのまま粗放的に栽培し、春に刈り取りして牛の飼料としたり鋤込んで緑肥とすることが加賀では広く行われた(文献26)。
放棄耕作地(畑地?)に咲いているレンゲ
(2004年5月6日撮影)
イネ刈り後、再耕起された水田
(2004年10月25日撮影)
今日ではこのような緑肥植物の粗放的栽培は行われず、また雑草防除の目的から秋に水田を鋤起こしして、砕土した状態で越冬させ、さらに春耕も早く行われる(文献26)。